研究概要 |
(1)電気探査の実施(2)透水試験の実施(3)洞窟内温湿度分布と塩分分析,(4)気象条件,(5)地表踏査,(6)リモートセンシング(人工衛星画像)解析(7)層分布と地下水移動経路,(8)莫高窟を構成する地層の透水性と塩分析出条件,(9)地質と地殻変動帯の特定,(10)礫岩から成る崖面の安定性と耐震性評価に関する4つのテーマの中,(1)〜(9)を終了した。調査と研究により得られた知見を以下に示す。 (1)人工衛星画像解析と現地踏査の照合において,明瞭な一致を見た。(特に,花崗岩と片麻岩の広域分布状況) (2)気象条件について,阪大の設置した気象ステーションをベースに,崖上の米国ゲティ文化財団のステーションとの比較を行うことが可能となり,局地的な気象条件を連続して取得することが可能となった。 (3)壁画を透過する水分の挙動は,きわめて複雑なものであることが判明し,結露や塩の潮解を確認するには,きわめて高精度のセンサーを使用して,一年間連続測定を行うことが重要である。 (4)岩石中の塩分は,採取地点毎に大きく異なり,初期値あるいは基準値を設定することは現時点では困難である。水を使用しないボーリングが望ましい。 (5)莫高窟東側を流れる大泉河の水源は,三危山と祇連山に挟まれる標高1000〜1500mの高原であり,降雨や降雪による表面水が地下水となって,涵養される。その9割以上が東から西へと移動し,党河となって北流している。人工衛星画像上に表面水の流路と断層系を示した。 (6)崖面を構成する4つの地層について,2層は原位置透水試験によりその透水性を確認し,他の2層については大型供試体を日本に輸送して,室内透水試験と透気試験により定量的に評価した。また,塩分析出条件については,析出する塩の成分により「潮解」を考慮した室内実験を遂行し,比抵抗値,塩分濃度および飽和度の関係を究明した。この分野では初めての試みである。 (7)人工衛星画像の分析による広域地質分布,地殻変動の状況について,三危山断層と観音井断層を確認し,基盤岩である片麻岩(先カンブリア紀)に第三紀と判断される花崗岩の貫入状況が画像処理により判明した。大きな成果と考える。 全般に,20の洞窟を越える温度湿度の基礎データ,莫高窟の上部と下部における連続した環境測定により大量の貴重なデータを取得することが出来た。これらの結果を総合的に分析して,遺跡保存に対する提言を行ってゆきたい。分析が一段落するごとに論文発表を行う予定である。少なくとも5〜6編のものを2年以内に公表する所存である。
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