研究概要 |
本研究は、ハイデガー哲学のうち、『存在と時間』を中心とした前期ハイデガーの思想に焦点を絞り、分析哲学をも含めた現代哲学や、認知科学をも含めた現代の人間科学に対して、ハイデガー哲学がどのような意義を持つのかを、解明した。 研究成果の中心は二つある。 1 論文"Heidegger and Representationalism"(UTCP Bulletin, Vo1.1)においては、コネクショニズムが提案しているような、新しいタイプの表象主義の導入によって、ハイデガー哲学が人間の日常的な認知の中心に据えた、反表象主義的な「世界内存在」の概念に重大な変更がもたらされる必要がないことが、明らかにされた。 2 論文「存在論・プラグマティズム・テクノロジー」(『思想』,No.974)においては、『存在と時間』におけるハイデガーのプラグマティズムを、デューイの自然主義的なプラグマティズムと対比して、偶然性の扱いに関して両者の間に根本的な差異があることを明らかにした。そうした差異に基づいて、プラグマティズム的技術観と、後期ハイデガーの技術観との差異をも明らかにし、さらに、ハバーマス的な技術観に対してハイデガー的な技術観がどのような優位を持つのかをも明確にしている。プラグマティズムおよび技術についてのハイデガーの理論を明らかにすることにおいて、同時に、コンテクストとしての「社会」についてのハイデガーの理論を再構築するための、基本概念をも明らかにすることができた。
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