研究概要 |
本研究は、遺伝子医療および再生医療を中心とする先端医療技術に伴う倫理問題を、コミュニケーションの諸位相として捉え返し、<人と人との関わり合い>という倫理の根幹に立ち戻って、「生命の操作」という先端医療技術の基本的構えを形づくる問題群として定式化し、問題解決の方向を指し示すことを目指した。その基本的なスタンスは、先端医療技術に関わるルールづくりにおける公共的な意思形成のあり方と、生命の価値や質をめぐる哲学的問いを、関連当事者間および社会におけるコミュニケーションの問題として捉え返すというものである。今年度の研究成果として得られたのは、以下の通りである。 1.文献研究と論文公表 (1)おもに英語圏で公刊された遺伝子医療と優生学との関連を扱った文献・資料の読解を通して得られて知見を基に、その倫理的・社会的問題を整理し、考察を加え、下記の論文として公表した。 「生命の設計と新優生学」、『医学哲学 医学倫理』日本医学哲学・倫理学会、第21号、2003年10月 (2)先端医療技術をめぐる社会的関心の高まりや、医学生・看護学生の医療・生命倫理教育での重要性を踏まえ、医科学研究者と哲学・倫理学者との共同で、基本的な問題点を整理したテキストを作成する編集作業に従事し、下記の図書として出版を予定している。なお筆者担当論文は、「再生医療とクローン技術」である。 『医療倫理と生命倫理』、金芳堂、2004年6月 2.関連分野の研究者諸氏との対話・討論…先端医療技術がもたらす諸問題について、下記の国際学会で報告し、世界各国の様々な分野の研究者との意見交換を行い、新たな知見を得ることができた。 (1)2003年6月…"Risk Assessment in Advanced Biomedical Technology," 2nd LOSINJ DAYS OF BIOETHICS, Mali Losinj, Croatia (2)2004年2月…"Two Major Trends of New Eugenics," Fifth Asian Bioethics Conference, Tsukuba Science City, 3.文献・資料のデータベース化…遺伝子医療および再生医療の倫理的・社会的問題についての資料について、研究支援者である大阪大学大学院医学系研究科博士課程院生の協力を得て、データベースの作成を進めることができた。また、ドイツにおける生命倫理の研究者の協力を得て、ドイツ語圏における胚研究の現状についての資料収集を行った。
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