研究概要 |
「ピュラモスとティスベ」は、ルネサンス美術における古典主題の源泉としてもっとも重要なテクストのひとつであるオウィディウスの『変身物語』第4章で語られる物語であり、16世紀の北方美術に比較的多くの作例が残っていることが特徴的である。本研究は北方美術における「ピュラモスとティスベ」の図像の広がりと展開を明らかにすることを目的とし、この研究の基礎となるイメージマップのために「ピュラモスとティスベ」の主題が表現された作品を収集して画像データベースを構築した。 データベースの作成にあたっては、ロンドンのウォーバーグ研究所写真資料およびマンハイム大学ヘルマン・ヴァルター教授の協力により入手することができたオウィディウス『変身物語』刊本挿絵の目録「Mannheimer Ikonographische Repertorium zu den Metamorphoses des Ovid」を核とし、大英図書館、パリ国立図書館における調査で収集した画像および関連文献も参照した。収集の対象は12世紀から19世紀までの絵画、版画、彫刻、工芸の作品とし、図像を次の6種類に分類した。1,サイクル表現、2,ライオンから逃げるティスベ、3,自殺するティスベ、4,ピュラモスを発見するティスベ、5,その他、6,他の図像と結合したもの。現在入力した作例は242点である。 収集した作例から、とくに16,17世紀には実際にイタリアよりも北方において多くの作例が存在することが判明し、「ピュラモスとティスベ」図像が北方美術に特徴にあらわれているという事実が改めて確認された。本データベースは、もっとも典型的に表される「自殺するティスベ」の図像の比較や、例外的な場面表現の分析に有効である。今後はこのデータベースを引き続き充実させると共に、インターネット等で公開することを目指したい。
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