研究概要 |
本研究は、人間の盲点における知覚的補完現象の時空間的特徴を明らかにすることを目的にしている。 研究の背景は、知覚的補完が外界を復元するという点で視覚系における重要な機能の1つであり、盲点補完は知覚的補完のもっとも代表的な例であるからである。従来の盲点補完に関する研究は、質的なものが多く(例えば、Ramachandran,1992)、補完現象を数量的に測定したものが少なかった。われわれは、ギャップをもつ盲点領域を挟むように両側に線分を呈示し、線分の長さを徐々に増加(減少)させることによって、線分補完が生じる臨界線分長さを測定することによって、盲点補完を量的に測定した。これらの研究の結果、以下の事項が明らかになった。 1)盲点の両端の線分がひじょうに短いと(視負1°以下)、補完は起こらずに、短い線分が離れて見える。この事実は、線分補完が起こるためには、盲点両側の情報の比較照合が行われているということを意味する。 2)補完が起こる最小線分の長さは、水平方向と垂直方向で差があり、垂直方向のほうが長い線分を必要とする。この事実は、盲点補完の異方性(anisotropy)を示す。 3)盲点における線分補完の異方性は、盲点の水平径と垂直径の長さの差とは相関がない。 4)補完には線分幅、呈示時間が一定の効果をもっている。 5)線分で見出された異方性は、2種類の補完が起こる可能性をもつグレーティング刺激を用いた場合でも同様の異方性が見出されたので、頑健な(robust)な現象であるといえよう。 6)盲点を挟む両端の線分の間で「整列性」「方位」「コントラスト」の差があっても、補完が生じる。これを"補完のトレランス"呼ぶ。トレランスは、整列性と方位では、水平方向のほうが大きく、コントラストでは垂直方向のほうが大きかった。これらの結果は、補完に必要な情報に違いがあることを示唆している。
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