研究概要 |
本研究は、高齢者の語想起能力とその低下のメカニズムを検討することを目的とする。加齢に伴い人名などの固有名詞が想起しにくくなると言われているが、これまでの語想起研究では、人名・地名などを含む広範なカテゴリーについて高齢者の語想起能力を調べた研究はなかった。先行研究で、健常高齢者と若年者を対象に、語頭音、生物、人工物、人名,地名、抽象語など12領域に渡る48カテゴリーの語想起実験を行い、高齢者は総じて語想起能力が低下し、特に人名が困難になること、一方、若年者も一般名詞に比べ,人名想起が相対的に困難になることを明らかにした。本研究では,後続研究として,人名の想起困難の普遍性および想起困難の要因を検討した。 第1に,3年後の追跡実験を行い,個人内の一貫性を検討した。1回目と2回目の生成語の内容一致度は平均に比べ,人名,語頭音,抽象語で低かった。第2に,先行研究で用いた有名人カテゴリー(例,「政治家」)と,一般人名カテゴリー(例,「男の名前」)やその他の固有名詞カテゴリー(例,「駅名」)の難易度を比較するため,新たな語想起実験を行なった。想起数は,有名人カテゴリーのみ減少し,一般人名やその他の固有名詞カテゴリーは語頭音や生物,人工物などの想起数と変わらなかった。第3に,生物や人工物などの一般名詞(例,「ライオン」)と有名人名(例,「夏目漱石」)に関する知識量を比較するため,(1)...がある,(2)...である,(3)...できる,の3文によって各語に関する知識を書き出す実験を行なった。記述された特徴の異なり数は,人名が最も多く,記述内容の共通性は人名が最も低かった。有名人の名前は,ある一定期間使用されるものの個人の一生を通じた永続的使用が少なく,知識の個人差も大きい。このため,人名は,概念の共通性が低く,使用頻度も低いため,想起困難が生じやすいのかもしれない。
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