研究概要 |
本研究は,Seidenberg & McClelland(1989)が提案した語彙処理の枠組みを基に,日本語の読みに関する脳型情報処理モデル(トライアングル・モデル)を構築し,我が国における失読症の発現メカニズムを明らかにすることを目的とした.モデルは人工的ニューラル・ネットワークで構築されるシミュレーション・モデルであり,処理要素であるユニット集合上に表現される文字形態,音韻形態,意味の各表象が双方向的に計算される過程により,単語の音読や理解が成立する. 構築したトライアングル・モデルは,健常成人の音読特徴を再現できるだけでなく,仮説に従って適切な部位を損傷することにより,主要な三つの失読-表層失読,音韻失読,深層失読-をも再現可能であった.さらに,これまで実装の難しかった意味表象をモデルに組み込む試みを行い,文字→意味では漢字語の処理効率の良いことを実際に再現することができた.今回,残念ながら,この意味表象までを組み込んだトライアングル・モデルを構築し,シミュレーション実験を行うことはできなかったが,これは今後の課題としたい.それでも,本研究の結果は,これまで主に英語圏でしか検討されてこなかった脳型情報処理モデルが,日本語の読みにおける諸現象を同じメカニズムで説明できる可能性を十分に証明したといえる.
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