研究概要 |
本研究は,個人の目標が他者の行動によって妨害され,利害や意見の不一致や対立が起こる対人的葛藤場面を行動観察することによって,幼児が,どのように他者に対する怒りや嫌悪,悲しみなどのネガティブな感情を統制・制御するのか検討するものであった。 多数の幼児が同時に遊び,お互いの意図の違いから対人的葛藤場面が起こりやすいと想定された遊戯室と積み木室で行動観察を行ったにもかかわらず,対人的葛藤場面の生起頻度は予想以上に低く,12事例しか観察されなかった。特に,年少児においては,客観的には意図のずれがあり,対人的葛藤があってもおかしくないと思われる場面でも,否定的な表情,言動,行動などの反応がなく,表情には出ないが驚いているように動かないことがあった。このような場合,しばらくすると何事もなかったかのようにそれまでの遊びを続けるか,どこか別のところに移動することが多かった。 事例数は少ないものの,自己の意図や相手の内的状態を把握する能力のある年長児の方が,このような能力が十分でないより年少の幼児よりも,対人的葛藤場面の事例が多い傾向がみられた。また,これらの事例からは,対人的葛藤場面での自他の感情,対処方略について知っていると思われる年長児でも,自己の意図の説明はするが,葛藤の終結は自然に別の場所に移動するというのが主であることが示唆された。日常の遊びの場面では,多様な要因があり,これまでの研究で明らかにされてきたような方略をあまり利用できていないことが考えられた。 保育者の直接的な仲裁・支援の事例も多く見られなかったが,保育者が支援する際に留意している点は,お互いの意図の説明や幼児間での仲裁に類似点が見られた。
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