研究概要 |
これは幼児期から児童期初期(3歳〜小学2年生)の子どもの人間関係の発達の様子を実証的に描くとともに,それを規定している親の要因を明らかにし,加えて愛着の世代間伝達仮説について検討しようとする縦断研究である。本研究は筆者が構築してきたソーシャル・ネットワーク理論である「愛情の関係モデル」を用いて,3歳の子ども85名とその両親の協力を得て,子どもが8歳になるまで追跡したもので,主な結果は以下のとおりである。 まず,幼児・児童初期の人間関係の発達についての「愛情の関係モデル」の基本的な4つの仮説が支持された。すなわち,(1)幼児といえども複数の重要な他者からなる人間関係の枠組み,すなわち,愛情の関係の枠組みを持つ,(2)それぞれの子どもが選択した重要な他者の間には心理的機能分化がなされている,(3)それぞれの子どもが自分にとって重要な他者からなる人間関係を作り上げるために,愛情の関係の枠組みには個人差がある,(4)この枠組みには数年間をみると変動の可能性がある,の4点である。さらに,子どもの人間関係に関連する親の要因についての分析によって以下の3点が注目された。(1)母親と父親の要因の影響の仕方は異なる,(2)親の影響の仕方には直接的なものと間接的なものがあり,しかも,後者の仕方の影響の方が大きいと思われる,(3)母親が子どもの愛着行動を受け容れることがこの時期の子どもの人間への関心を育てる,の3点である。 最後に,いわゆる伝統的な愛着理論に拠る愛着と本研究に拠る愛情関係の枠組みとの関連について,いわゆる「愛着の世代間伝達仮説」に焦点化して論じた。この問題を論じるために,本研究では,子どもの愛着の測定,親には愛着への態度の面接などをもしてきた。現在までの分析の結果は,母親の「自分の母親」との関係が「自分の子ども」との関係に多少とも影響を与えていることを示すデータと,その関係が子どもの人間への無関心と相関するというデータとがあり,詳細な分析は今後に譲らざるをえないが,本研究は世代間伝達仮説について単純な結論を下すべきではないことを示唆したのである。
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