研究概要 |
J・ロールズ,B・バリーによる,主として中立性に焦点をあてた正義論A・センに代表される平等主義理論に関してその規範理論としての論理構造の探索を進めることで,そこで自明の前提として置かれている価値が「公平」であることを明らかにした.その価値の内包を明らかにするために,S・アダムズのequity理論,J・バーガーの地位価理論など,公平評価に関する経験理論を検討し,規範的判断のメタ言語としての「公平」の性質を「同一条件同一処遇」という形式的要請ととらえた. 上にもとづき,「公平の論理」についてフォーマリゼーションを試みた. 「公平」を同一条件同一処遇の形式的要請を定式化すると,配分を左右する「条件」は同値類(定義上,同値類は互いに素な部分集合である)でなければならないことが明らかとなる.ここから,「公平なルール」は,形式的には「条件」と「結果」との写像の形をとることが要請される.しかしながら,われわれは,公平さを判断する際,単純に,「受け手」がもつ条件と結果の対応関係をみているわけではないことがさらに指摘される.公平判断においては,常に,「その状態の公平さが問題となるのは誰なのか」という問題が,直接的な配分ルールより以前に存在する。すなわち,「公平なルール」が作動する局面を考える必要がある.ここから,「公平」という規範的要請にはより基底的な写像関係,すなわち,「ルールの適用範囲とそれ以外」を分けるもうひとつのレベルのあることを明らかとなった,以上より,「公平」が人々を条件集合に区分し,それぞれに配分を割り当てる,可視的な写像のレベルと,そのような配分の考慮への包摂と排除を定める不可視な写像のレベルのふたつよりなり立つことが示された.さらに報告書では,「不公平」とみなされるものの形式的な性質から,普遍主義化やルールの普遍主義性が現実社会に対して持つインプリケーションの導出をおこなった.
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