研究概要 |
平成16年度は、前年までに開発した31項目の介護負担感評価票を用いて失語家族の負担感の特徴を,利き手側の片麻痺があるという点では共通している非失語家族と比較した。その結果,当事者の基本的ADLに関わる介護状況には差がなかったが,服薬,金銭管理,電話の使用,意思決定など,より高次のIADL面では失語家族の介護状況が有意に重かった。全般的負担感の評価項目では両群間に差はなかったが,失語家族では言語を用いた伝達や意思の疎通における負担感が高く,コミュニケーションに関導する負担感の評価としての妥当性が確認された。さらに,介護負担感の継時的変化を明らかにする目的で,ある高次脳機能障害サークルに属する失語家族を対象に,遡及的かつ継時的に調査を行った結果,高い負担を感じている家族が多い項目は「退院時」には31項目中24項目あったのに対して,発症後平均6年が経過した「現在」では7項目に減少していた。しかし,言語面の項目における負担感は退院後時間を経ても持続していた。retrospectiveな調査という限界はあるが,縦断的に見ると,失語家族の介護負担感は全体としては経過とともに減少するものの,社会生活に欠かせない言語・コミュニケーション能力の障害がもたらす持続的な負担感が存在することが明らかになり,失語症という障害の特徴が浮き彫りにされた。次に,試案を修正し30項目としたものをCommunication Burden Scale : COM-Bと名付け,全国各地の多数の失語家族を対象に調査した。有効回答の得られた353名について検討した結果,1)本人の体調についての心配,家族の急病への対処についての不安,本人のつらさを思いやる気持ち,一般の人の障害理解の不足,適切なリハビリや対応を受けられる場所の不足の5項目で高い負担感が認められた。これらのうち,本人の体調についての心配と家族の急病への対処についての不安の2項目は,非失語家族との比較研究においても高い負担感が見られ,かつ重症度との関連もなかったことから,失語家族全般に特有の負担感と考えられた。2)介護者の特性との関係では高年齢健康状態の悪いことが負担感の増大に関連していた。3)失語症者本人の特性との関係では,本人の自立度(低いほど負担感は高い),失語の重症度(重度ほど負担感は高い)との間に関連が認められた。しかし,発症からの経過期間を指標にした検討では継時的変化は明らかでなく,これについては横断調査という方法の限界によるものと考えられた。4)項目の内的一貫性は高く,尺度の信頼性が確認できた。
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