研究概要 |
本研究の目的は,構造調整下における自動車産業の労働者の職務満足とそれを規定する要因の構造について,以下の諸点を中心にその変化をあきらかにすることにあった。(1)構造調整の進行が仕事意識におよぼす影響の解明,(2)媒介要因としての職場の人間関係の変化が仕事意識におよぼす影響の解明,(3)OJTの変化と仕事意識との関連の検討。 この目的のために,2002年度(平成14年度)には中国地方を代表する大手自動車メーカーであるM社とM社の従業員の調査を実施した,この年の調査の中心は,同年9月〜10月にかけて実施したM社本社門前等で実施した配票によるアンケート調査であり,有効回答298をえた。また,2003年度(平成15年度)には,広島県の自動車関連事業所541社(自動車販売業をふくむ)の資料を収集・整理し,これをもとにして,広島県中心部の自動車部品製造関係の事業所42社に聞きとり調査を実施した。2004年度(平成16年度)にはこれらの成果をもとに,上記課題の分析作業を進めた。そのなかで,とくに2002年度に実施したM社従業員の調査から,つぎの諸点があきらかになった。 (1)自動車産業労働者の労働環境の変化にともなって,仕事に必要な能力についての認識に変化が見られる。今後必要とされる仕事能力としては,従業員のあいだでは,「職場をひっぱるリーダーシップ」にかんする項目や,自分の考えを明確に伝える「コミュニケーション能力」にかんする諸項目など,全般に個人の能力や考えをアピールするために必要な諸項目があげられた。「決まったことを着実にこなす確実さ」「仕事で鍛えた熟練」「協調性」などの諸項目はその重要性が低下すると予想されていた。また,これらの評価の推移は技能部門,事務部門,技術部門の従業員の仕事意識を均質化する方向に作用していた。本研究では,これらの知見をふまえ,自動車産業の労働で必要とされる仕事能力の分類モデルを作成した。 (2)職務満足を規定する要因は主として仕事そのものおもしろさという労働の内在的報酬であったが,職場の人間関係への満足度が職務満足におよぼす効果が技能部門において特に高く,これが他の部門にくらべて内在的報酬の低いこの部門の職務満足度の低下を抑制する要因になっていた。 (3)仕事に要する最小限の技能を身につける期間はライン部門では3日程度と他の部門にくらべて短いが,職場のことならなんでもできるという水準に達するには10年前後という長期間を見積もるものが他の部門と同様に多い。これは先述した「仕事に必要な能力」がたんに高度化しているだけでなく,リーダーシップやコミュニケーション能力など,管理職にとくに必要とされる職務にまで広がっていることが原因のようである。
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