研究概要 |
本共同研究では,ドイツ,アメリカ,イギリスの新教育運動ごとに焦点をあて,次の4点を解明した。 ドイツ新教育運動の領域では,(1)20世紀初頭のドイツ教員養成の改革論議の特徴を浮き彫りにするため,全国学校会議(1920)に焦点を当て、新教育的な性格がそこにどのように反映しているのかを解明し,さらに,(2)ワイマール期における国民学校の教員養成に着目し,新教育連盟ドイツ支部初代会長エーリヒ・ヴェーニガーが学長を務めたアルトナ教育アカデミーを取り上げて教員養成と新教育の思想との関係を考察した。アメリカの新教育運動の領域では,(3)教職の専門分化の経緯と進歩主義教育の実践上の指導者の一人で,ウィネトカ・プランを開発したウォシュバーンの教師教育論を明らかにし,彼がウィネトカ教員大学院大学を設置した意図に着目し,授業の観察と実習を中心とした教師教育のための大学院大学の内実を解明した。さらにイギリス新教育運動の領域では,(4)教師の専門職化の基盤が,「教育の新理想」の活動と組織特性,また教師の行為コードが「創造性」によって意味付与されて形成され,それによって教育の公共性と私事性を保障する国家と教師の関係の「枠組みのずれ」がもたらされたことを考察し,公的文書のなかにその影響が出てきたことを確認した。 以上を概括すると,ドイツの全国学校会議の分析からは、同会議への新教育関係者たちの積極的な関与はみられず、議論の内容にも新教育的な性格は認めることができなかった一方で、アルトナ教育アカデミーの分析からは、青年運動を含む新教育に関与した人たちが数多く同校に教員として就職していることが明らかとなった。ウォシュバーンの理論は、わが国で話題になっている専門職大学院の先駆とみなすことができ,その方向性が容易ではないことが歴史的に示された。またさらに,イギリスの教師の専門職化の過程の分析からは,専門的学問と創造性をもった子どもの理解に方向づけられたカリキュラム編成能力の重要性が強調された点が明らかになった。
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