研究概要 |
本研究成果としては,中央ユーラシア史上におけるイェニセイ・キルギズ族の歴史的役割を考察する上で,第一資料ともいうべきイェニセイ川上・中流域で発見され,現地の各研究機関や博物館の協力を得て,各機関に所蔵されている古代テュルク・ルーン文字諸銘文について現地調査を行い,そこから新たな読みを提示することができたことを第一に挙げることができる。1991年のソ連の崩壊以前には,現地人及びロシア人以外の研究者が行えなかった南シベリア地区において,私は日本人として最初の専門家として,現地に入って,関係銘文の計測や撮影と解読調査を行うことができたのであり,ここから得られたデータをもとに従来の解読成果について検証並びに歴史学上の問題に新たな解釈を提起し得たことは大きな意味を持とう。 まず現地調査としては,平成14年には8月初旬から9月初旬までトゥヴァ共和国のキジル市郷土博物館及びハカス共和国のアバカン郷土博物館及びミヌシンスク郷土博物館の各所蔵の銘文資料について,また平成15年9月上旬にはミヌシンスク博物館所蔵の銘文の一部について,同じく平成16年8月下旬〜9月上旬にもミヌシンスク博物館所蔵の銘文資料の調査とそこから西北に離れた位置にあるスレク岩絵銘文の現地調査を行ったことが挙げられる。また平成17年9月には,字体や字句の使用でイェニセイ碑文との共通性が指摘されているアルタイ共和国のゴルノ・アルタイ地区発見の埋葬地や岩絵に記された銘文について,ロシア人考古学者のI.L.キィズィラソフが当地で行った現地調査とその解読成果について,文献学的再検討を加えた。ここで得られた成果は今後,イェニセイ・キルギズ族について,今後,その実態や歴史的役割について考察する上で確実な研究基盤を提供するものであるという観点から,その意味は極めて大きいといえるものであることを申し述べたい。
|