『通典』礼にみえる杜佑の議論を検索し、「説」20箇所・「議」12箇所・「評」5箇所の文章をそれぞれ確認し、各文章の内容の要約を一覧表にまとめた。また最も古い北宋版『通典』(影印本)を底本として、各議論を他の諸版本と必要に応じて校勘し、字句を確定した。その際にこの校勘作業の精密度を高めるため、国内の図書館のみならず、台北と北京の関係図書館を訪問し、『通典』諸版本を実地に調査した。その結果、最もよく利用される校点本『通典』(中華書局版)は、テキストとして大きな欠陥はないものの、校勘ミスによりこれまで全く見過ごされていた議論(「説」)が存在することや、2種類の異なる議論(「説」「評」)を誤って一個の文章(「説」)として取り扱っている事例等を新たに発見し、それぞれの議論の数と範囲を正しく確定することができた。 さらに、個々の議論の定義と相違については、以下の事実を明らかにした。「説」とはおもに経典の引用からなり、それを適宜配列し直した文章、「議」とは杜佑自身の視点により議論を展開している文章、そして「評」とは先学の解釈の優劣を比較して品評を加えた文章であることを明確にできた。 平成15年度は前年度に引き続き、『通典』礼にみえる「説」・「議」・「評」の文章内容を考察したが、特に12個の「議」をめぐる研究史上の課題についても検討を加えた。研究成果報告書では、「説」については、各文章の出典を洗い出してその配列の特徴を考察した。「議」・「評」については、出典の確認とともに簡潔な日本語訳を施した。
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