中国の童蒙教訓書に関して、特に民間の教育機関が拡充した唐代を中心に、その資料を豊富に含む敦煌文献を主たる資料としてデータの収集調査を行った。「童蒙教訓書」を当時の学校での規範教育のための教材とみなし、学校教材として用いられた文献の収集調査を行った。その作業に先立ち、敦煌の学校についての資料を整理するために、当時の学生の書付(所謂「学郎題記」)のある写本を収集整理し「学郎題記リスト」を作成した(報告書の資料篇に載せた)。 学郎題記を手かがりに「童蒙教訓書」を洗い出すと、「新集厳父教」「太公家教」「崔氏夫人訓女文」「〓〓新婦文」「新集文詞九経抄」「百行章」「王梵志詩(一巻本)」「楊満山詠孝経詩」の文献が得られた。それらの文献の内容を検討すると階層に応じて、それにふさわしい規範教育がなされていることが確認でき、「新集厳父教」は庶民に近い人々を対象としたもの、それに対して「太公家教」はそれより上の階層の人々を対象とし、「百行章」は士大夫階層、「崔氏夫人訓女文」「〓〓新婦文」は女訓書の類で特に「〓〓新婦文」は滑稽な物語の中に女性への訓戒をこめたものであった。「王梵志詩(一巻本)」「楊満山詠孝経詩」を除く各文献についての研究は報告書に載せてある。また、研究の基礎作業として「太公家教」訳注、「百行章」抄本対校表及び訳注もあわせて資料篇に載せた。 今回の研究で「規範化」という点で、「童蒙教訓書」と「類書」が密接に関連することを実感した。今後の課題として、「類書」に関する調査を行って行きたいと思う。
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