研究課題
基盤研究(C)
この研究の目的は、グライスの会話の含意、レビンソンの一般化された会話の含意の体系化、発話行為論、リーチの丁寧さの原則における意味の取扱いを関連性理論の視点より再検討し、関連性理論の枠粗みに基づき、録音されたテレビのインタビューと日常会話における発話の意味解釈を考察することにある。語用論の伝統的な意味研究の試みが発話解釈を認知的に妥当な形で説明できなかったのは、発話の意味の分類に重きが置かれ、いわばトップダウン的な視点から意味の問題に取り組んできたからである。これに対して、関連性理論が捉える発話の意味解釈の視点はボトムアップ的であると言える。関連性理論は、発話解釈に関わる意味のさまざまな段階をすべて考察の対象とし、発話により記号化された意味が表意、推意へと、語用論的推論によるオンライン作業を通して復元され、拡充される過程を丁寧に記述する。その記述は、発話の明示的意味(表意)と暗示的意味(推意)の区別、仮説の構築と文脈想定の呼び出しによる意味解釈の仕組みに基づくものである。こうした枠組みにより、テレビのインタビュー番組と日常会話における発話の意味の拡充について分析することが可能になる。両者は会話参与者が共有する知識の質と量、あるいは会話の目的の点で、表意の復元と推意の拡充において違いがあるであろう。表意の復元に関して、テレビのインタビュー番組における会話は日常会話に比べて、聞き手が共有する知識が多く、しかも確実なために、意味充足においても文の意味に主要に関わる要素まで容易に補充することができる、一方、推意の拡充に関しても、聞き手が語用論的推論により発話の推意を導き出す過程は同じであるものの、両者には会話の目的に基づいた違いが見られる。テレビのインタビュー番組の司会者は、インタビューにあたり視聴者に対してゲストの発言の真意を引き出すことを心掛けるであろう。日常会話における推意の拡充は、むしろ発話の意味の確認や解釈の確認を目的として行われる。
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