研究概要 |
研究の目的:表題の研究を進めるにあたり、特にMS Pepys 2125,Magdalene College Cambridge, and MS G.31,St.John's College, Cambridgeを対象とした。 成果[Pepys 2125]-1:"Dimitte me, Domine,..."(item 3)の校訂が完了し、国際的学術雑誌Mediaeval Studies(Toronto University)に掲載が決まった。本エディションには詳細な注を付し、Introductionでは、Pepys2125写本全体の考察、本文の内容、筋立て、またどのような読者を対象にいつ書かれたものか、原典となった文献や類似した素材を扱った関連文献などについて論じている。 成果[Pepys 2125]-2:中世の文献はオリジナリティより、過去のオーソリティを継承することが重要であったが、換骨奪胎、複数の文献からの抜粋の組み合わせ他自由な書き換えが常套的であった。"Against despair"という1つの作品を材料に、このような創作過程を実例によって考察した。使用した写本はMS Pepys 2125(item 12,"Teaching of St Barnabas"),MS Hopton Hall, Keio University, and MS Additional 37049,British Library, London. 成果[St John's College, G.31]:G.31は、『創世記』の中世英語訳である。主にウルガタ聖書をもとにしており、Peter ComestorのHistoria scholastica、その中仏語訳La Bible historiale、Peter RigaのAuroraなどからの引用と、訳者自身の加筆を加えた自由でこなれた訳となっている。14世紀末Wyclif派によって聖書の英語訳が初めて試みられたが、教会はWyclif派を弾圧して、1408年、一切の聖書の翻訳、またそれを使用したり保有したりすることを厳しく禁じた。弾圧は宗教改革まで続いたことを考えると、15世紀半ばにこのような自由な聖書訳が上梓されたことは驚異に値する。本テキストの校訂本(エディション)は、Middle English Textsシリーズ(Heidelberg University)から、出版が決まり、編集部と準備を進めている。エディションは英語テキストと、及びウルガタ聖書、Historia scholasticaの対応箇所を並列段組で示し、La Bible HistorialeはAddendumとして巻末に付す。Introductionでは時代背景、作品のスタイル、原典についての論述、創作年代、対象などについて論じ、詳細にわたる注とglossary, bibliographyを付ける。準備の一環として、Wyclif派と15世紀イギリスの英訳聖書、また本テキストとWyclif聖書との関連を論じた論文を学会で発表した。
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