研究概要 |
本年度は3年計画の最後の年にあたる。これまでの2年間に、芭蕉の俳句、現代詩の一般的問題、フランス現代詩人のChar, du Bouchet, Dupin等にあたって、俳句的なるものの対照研究を行ってきたが、3年目の本年度は、以上をベースとして、フランスにおける戦後の俳句の受容が、どのようにフランスの詩人たちにおいて内在化されていったかを検証した。 フランス人は俳句の受容にあたって、最小限の字句しかつかわない俳句の形式にとりわけ関心を寄せた。それは一見、20世紀前半のエキゾチスム的関心と同傾向とも見えるが、しかし第二次大戦後の詩人たちはむしろそこに、自らの詩とはまったく異なる詩世界の本質を探り当てることで、その邂逅を自らの詩作に反映させようと試みたといえる。彼らは俳句を「清澄な世界」、「超然とした世界」と呼び、この最小限の形式により人と世界の関係は一種の根本的な中立状態におかれるとみなした。 そういった判断が、どのように西洋の詩人たちの価値観に内在化されどのような詩作品を生んだかを、本年はおもに、1924年生まれのフランス詩人アンドレ・デュ・ブシェ(Andre du Bouchet)と1930年生まれのフランス語圏スイスの詩人ピエール・シャピュイ(Pierre Chappuis)という2人の現代詩人をとおして考察し、論文としてまとめた。すなわち、"Poesie Moderne et emotion : lyrisme et parole〜energie"(シンポジウムLe langage, ce particulier, ce singulier, Universite de Tsukuba,2004,での発表をもとにした論文、2005年度刊行予定)であって、上記ふたりの詩人たちのともに断片性を主調とする作品のうちに、最小限詩形がどのような情動の世界を現出しているかを明らかにしたものである。
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