研究概要 |
14年度はフランス語の不定総称名詞句の意味解釈の問題を取り上げた。伝統的に不定名詞句は存在量化表現と分析されてきたが、総称解釈が説明できない。不定名詞句の持つ存在量化力は名詞句に内在するのではなく、その指示対象が含まれたイベントを表す時空変数の量化により間接的にもたらされると仮定し、かつ不定名詞句は∃s∃x[N(x,s),∧P(x,s)]のときにイベントを通して談話に適切に定位されることを示した。sは時空変数、Pは局面レベル述語である。また不定名詞句の総称解釈は、存在量化された不定名詞句の指示対象を含む状況が全称量化されることにより得られるという仮説を提案した。 次にフランス語にはDes rosiers qu'on ne taillent pas ne donnent pas de belles fleurs.(剪定しないパラはきれいな花を咲かせない)というdes N主語を持つ総称文がある。このような用法については、主語に付加された関係節が状況(時空変数)を制限節に導入し、非特定解釈のdes rosiersが存在量化される状況の集合について総称量化されることによって、例外的に総称解釈が得られることを示した。 また名詞句の指示の問題は「AはBだ」といういわゆるコピュラ文において特に問題となる。本研究では、話し手・聞き手などの語用論的要素を取り入れた談話モデル理論を構想し、そめ枠組みの中で指示の問題を分析している。最後にコピュラ文の問題を考察し、従来の理論は「あの人はこの船の船長です」のようないわゆる同定文の意味解釈に関してとりわけ問題が多く、コピュラ文の分析には話し手と聞き手の知識状態という語用論的要因を取り込む必要があることを明らかにした。
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