翻訳行為は異文化の差異を乗り越える異文化間コミュニケーション行為である、と捉える立場から、テクストジャンル・意図・メディア・受容者といった翻訳に決定的なコミュニケーション要因に注目しながら、翻訳現象を様々な角度から分析検討してきた。これまでの翻訳理論研究の成果を用いて、分析・評価するための方法をさらに明確化し、現代の日本から世界に発信していく際に必要な異文化知識を得るために、具体的な翻訳例として日本文学とドイツ語薬を比較し、訳文はどういう特徴・効果を得たか、といった異文化コミュニケーションの事例を、比較分析した。 さらに日本文学のドイツ語訳がどの程度ドイツで実際に読まれているかの調査のために、ベルリンの国立図書館および市立図書館を訪れた。具体的には日本文学のドイツ語翻訳がドイツの図書館にどの程度所蔵されているか、そして所蔵図書の利用件数がどの程度であるかを、数量的に調査した。ドイツ最大規模を誇るベルリン国立図書館は学術的な目的で利用される一方、市立図書館は一般市民の利用を目的としている。その両者について、所蔵数と利用件数を調べてみることにより、翻訳による受容のおおよその傾向が出てくると思われる。また、ベルリン自由大学の東アジア研究所で日独語間の翻訳についての意見交換を行った。 こうした現地調査により、発信者側として成功だと思われたコミュニケーションが、受け入れ側として実際にどの程度成功したかを、数値で表わすことができた。
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