研究概要 |
本研究は,Best(1995)のPerceptual Assimilation Modelが述べているようにL2の音がL1の音の範疇に基づいて知覚され,L2の音の弁別難易度はそのL2の音がL1のどの音の範疇に知覚同化されるかによって決まるかを,日本語話者の英語の母音の知覚・生成を通して検証することを試みたものである。被験者は,英語の母音の(1)弁別実験(2)同定実験(3)日本語の母音範疇への知覚同化実験(4)生成実験の4つの実験に参加した。また,統制群として英語話者が弁別実験と同定実験に参加した。 日本語の母音範疇への知覚同化実験の結果と弁別実験と同定実験の結果を比較検証すると,日本語の母音範疇への知覚同化の型により,弁別難易度が予測されるとは限らずBest(1995)の仮説を裏付ける結果は必ずしも得られなかった。しかし,英語の母音の知覚に日本語の母音の範疇が影響していることを示す結果は多く得られた。 /ae/は,一般に「ア」に知覚同化されることが多いが,軟口蓋閉鎖音の後では「ギャ」,「ギャ」に知覚同化され,「ア」に知覚同化される/a/,/Λ/との弁別は軟口蓋閉鎖音の後では容易であった。/ae/は,鼻音が後続すると,フォルマントが大きく屈折するため,「エア」に知覚同化され,そのため鼻音の前では,先行子音の調音点に関係なく/a/,/Λ/との弁別が容易であった。また,/i/は,母音長が長くなると「イー」に,短いと「イ」に知覚同化される傾向があり,「イ」に知覚同化される/I/との弁別は,/i/の母音長が長くなると容易になる傾向が見られた。/i/の同定は/l/が後続すると著しく低く,日本語話者の発話による/i/も/l/の前では不明瞭であった。これは,/l/の知覚・生成が不正確であることが関わっているものと思われる。/a/,/Λ/は子音環境に関係なく弁別,同定が困難であった。
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