研究概要 |
本研究は,安全,健康など,生活環境から得られる生活利益を確保するという観点から,土地所有のあり方を探究することを目的とした。具体的には,私道に対する土地所有者の自由,給水や電気・ガスなどの供給(いわゆるライフライン)によって受ける個々人の利益に着目し,住民全体の生活利益や環境利益との関係で,この利益がどのように保護されるべきかについての考察を行った。このような利益衝突の場合では,生存権的基本権と資本主義的基本権との調整が顕在化し,生存権的基本権はどこまで保障されるべきかの解決が求められるからである。 そこで,本研究は,土地利用が建築基準法,自治体の制定による条例,土地利用に関する指導要綱等に違反している事案を対象とした裁判例の分析を行った。その結果,かつての裁判実務では,生存権的基本権との調整を図るための基準が必ずしも明瞭ではなかった。その一方で,近年では,土地所有を主張する事業者の利益を制限する裁判例が徐々に散見されるようになっている。 以上の考察を踏まえた結果,土地所有の制限については,生存権的基本権が損なわれる場合か,それとも,資本主義的基本権が保護の対象となっているケースかによる区別が,今後は一つの重要なメルクマールになるという知見を得ることができた。
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