研究概要 |
個々の具体的な契約には、とくにその中核を占めるとされる「意思」には、千差万別の性向・内容・前提がありうる。その細部の個別性に捕われる前に、ある契約にとって典型的かつ不可欠の最低部分、すなわち契約の「本質的要素」の存在を探求し特定しておくことが、法性決定の作業の前提となる。ここに契約の本質的要素とは、債権法上は「給付」の形をとって現れる。したがって、給付概念ならびにその分類において大切なことは、契約において潜在的に含まれうる複数の給付の中から本質的な給付を把握するために有用な要素を特定・析出しておくことである。こうした観点から、給付を有体給付と無体給付に分け、与える給付・作為給付・不作為給付などは前者に、無体財産権を含む財産権移転給付や担保する給付などは後者に分類することによって、給付概念を整理した。 本研究は、単にフランスから学説を輸入したり、フランス法を思考の素材や実験の場として<外から>みるのではなく、いわば<内側から>、日仏両国に当てはまる共通の枠組みないし理論を展開しようというものであった。その点からいえば、本研究の一端がカルボニエ教授の目に触れて、その教科書において引用されるに至ったことは、それなりの成果として評価できるのではないだろうか。のみならず、拙論は、ほかにもフランスにおいて批判者と賛同者の両方を見いだすに至っている(contra, Vincente, Ancel ; pour, Simler, Pignarre)。もちろん、私見の方向がフランスでいかに評価され、またいかなる運命を辿るかが重要なのではない。大切なことは、給付概念をめぐって日本においてのみならず、フランスにおいても議論が活発になることだったからである。仮に、フランスでの議論に一定の寄与ができたとすれば、それは日本法学の国際化のためにも幸いであったと思う。ただし、わが国の学界においては、本研究が与えるインパクトは未だに小さく、自らの非力を実感せざるを得ない。
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