研究概要 |
本研究においては,欧州通貨統合に対するイギリス2大政党の政策的発展と政治制度戦略の間の動的な相互作用に焦点をあて,その文脈の中で,2大政党リーダーを中心とする政治エリートの態度がどのように形成され,また,それがイギリスのユーロ参加問題にどのようなインパクトを与えるのか,という問題についての検討がなされた。さらに,近年EU研究において注目されている「欧州化(Europeanizasion)」概念を手がかりにして,ユーロ参加問題に関する分析をさらに深化させる努力を行った。本研究の主たる成果としては,欧州通貨統合に対する2大政党指導部の立場について,歴史的制度論アプローチによる一貫した説明の提示が挙げられる。ユーロ参加に消極的な保守党指導部の立場は,集権的制度編成を特徴とするイギリスの国家レヴェルにおいてさらに集権化を促進する一方,超国家レヴェルにおいて欧州統合の進展に抵抗する集権主義戦略の一環として考えられることが指摘された。なお,こうした保守党指導部の立場を,イギリス政治の「欧州化」への反発のあらわれとして見ることができる。これに対して,ユーロ参加に積極的な立場をとる労働党指導部については,憲政改革プログラムに示されるような国家レヴェルにおける分権化を促進し,超国家レヴェルであるEUにおいて統合の進展を一定程度受け入れる分権主義戦略を追求していることが明らかにされた。こうした労働党指導部の立場は,イギリス政治を,「欧州化」の一環である欧州通貨統合に適合するように変容させる努力のあらわれとして見ることができる。
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