研究概要 |
20世紀前半における福祉政策思想の代表として,ウェッブ,ベヴァリッジ,ボザンケ,ホブソン,ホブハウスらの福祉政策思想の比較研究を行うという目的を設定した。「救貧法に関する王立委員会」をめぐって,ウェッブとボザンケと比較した結果,当初の作業仮説どおり国家権力中心主義(ウェッブ)と,慈善中心主義(ボザンケ)との対照がある程度明らかになった。それだけでなく,両者の政策提言の差異には,ウェッブとボザンケの政策論には,スペンサー社会進化論の独自の摂取があることが判明した。ウェッブの場合には,産業社会を進歩とともに退化という二面的側面で考察し,後者の退化を防止するための国家介入を正当化した。ボザンケの場合には,人間の倫理過程の進化についての楽観論をもとに,国家の役割は,倫理的完成を推し進める積極的なものとなりうるが,その具体策はあくまで消極的でなければならないという主張を確認した。さらに,ウェッブとベヴァリッジの比較については,ウェッブの場合,ナショナル・ミニマムまでの国家介入を求めるものの,それ以上の部分についての保障は,友愛組合などの自発的団体にこれをゆだねるべきだという福祉の複合体構想が背後にあったことを明らかにした。他方,ベヴァリッジは,労働市場の需給一致傾向への信頼をもとに,国家の役割を情報提供などの均衡過程への手助けと位置付けていたことが分かった。いずれの論者においても,将来社会についてのビジョンをもとにそれぞれの福祉政策を単なる技術論としてではなく,社会哲学の一貫として提出していたことが分かった。
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