研究概要 |
アジア太平洋地域の中間財の貿易構造を説明する体系的・網羅的実証モデルを開発した。具体的には,アジア経済研究所発行の1995年アジア国際産業連関表を基礎データとし,新古典派経済理論に基づき,域内10カ国20産業および10カ国の労働市場,計210市場の超過供給関数のヤコブ行列とその逆行列を推定し,各国各市場の外生的変化によって誘発される国・産業間の価格の敵プロセスと中間財の域内貿易の変化をシミュレーションによって分析した。推定された超過供給関数のヤコブ行列は,生産物市場に関しては正の対角要素を持つドミナントダイアゴナルであり,域内国際貿易市場における均衡の動学的安定性が確認できた。しかし,労働市場の需給調整をも考慮した場合,賃金の波及に関して,非常に小さい値ではあるが,不規則な価格変化が見られるという問題点を示した。域内各国で労働賦存量を個々に増加させるというシミュレーションの結果,(1)自国の賃金は例外なく低下するが,他国の賃金を上昇させる場合が支配的である,(2)自国の生産物価格は概して低下するが,他国の価格は増加する場合もあり,減少する場合でも価格低下の大きさが非常に小さい,(3)自国の生産量および域内すべての国の生産量は増加するが,インドネシアで発生した労働賦存量は米国の生産量を若干減少させる,(4)価格変化による輸入代替の結果,域内すべての国について,自国の輸出はすべての場合で増加し,輸入は減少すること,(5)他国の輸出入への影響については,労働賦存量の増加が発生する国とその産業構造に依存して,輸出入の増減は若干不規則であることが明らかになった。本研究では,モデルの基礎的な構造をみることにとどまったが,今後関税率の変化のシミュレーションなどを通して,自由貿易協定の影響等,より現実的な問題に応用可能なモデルを確立することを計画している。
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