研究概要 |
本研究の目的は,金融・資産管理教育が家計の金融資産選択行動に及ぼす影響を明らかにすることである。研究結果は,家計を対象とした体系的な金融教育が必要か,行うとすればどのような金融知識(教育内容)を習得することが望ましいかについて示唆を与える内容となっている。 我が国では体系的な金融・資産管理教育は始まっておらず,教育の影響を示すデータの入手は困難である。そのため,我々は金融資産管理に関する知識をほとんど保有しない大学生に金融・資産管理教育を提供し,新たな知識を得るごとに各々が最適と信じる資産配分比率を示してもらうことでデータを得た。 研究目的を達成するために,我々は,(1)金融知識の習得によって,リスク資産への投資割合が増加するのか,(2)金融知識の習得によって,個人のリスク回避度に見合った資産選択が実現するのか,(3)金融知識の習得によって,家計が保有するポートフォリオの効率性が高まるのか(効率的フロンティアに近づくのか),の3つの分析を行った。 我々が一連の分析から得た結果は,(1)家計が個々の金融資産に対する客観的な知識を得ることにより,ハイリスク資産への資産配分比率が上がる可能性があること,(2)家計の資産選択行動は市場状況に多大な影響を受けるものの,体系的な金融知識の獲得によって,自らが許容可能なリスクを把握し,それに見合った資産配分を実現できるようになる可能性が高いこと,(3)ゲーム参加者のうち,新たに習得した知識をより理解している者,過去の投資資産数の多い者,今後,株式市場が好転すると予測している者が選択したポートフォリオの効率性は上昇する傾向があること,などである。また,各ゲーム参加者の過去のポートフォリオの運用成績は,ポートフォリオの効率性に影響を与えないという我々の分析結果は,行動ファイナンスの先行研究で指摘される結果と異なっていた。
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