旧ソ連諸国と中東欧諸国の企業を比較する場合、さまざまな視座の設定が可能である。研究代表者はすでに、それらの全般的比較は行ったことがあるので(加藤志津子「旧ソ連諸国と東欧の企業と経営」(高橋俊夫監修『比較経営論』税務経理協会、2003年))、本研究では、(1)企業と社会の関係はどうなっているか、ならびに(2)中小企業の発展状況はどうか、という観点からの比較を試みた。 (1)旧ソ連諸国(たとえばロシア)の企業と、中東欧諸国とりわけ移行先進国(たとえばポーランド)の企業との主要な違いのひとつは、前者が後者よりも政界と癒着してレントシーキング行動に傾斜する傾向があることである。そのような傾向は、ロシアではエリツィン政権下で始まったことであるが、プーチン政権下において肯定的な方向での変化の兆しが見られる。 (2)移行経済の発展にとって中小企業の重要性はつとに指摘されているところであるが、中小企業の発展状況は、国によりかなり異なる。ロシア、ポーランド、ハンガリー、中国の4カ国に関して、比較研究を行った結果、移行経済と中小企業の関連について、次の3点が確認できた。(1)中小企業の量的増大には意義があるが、それだけで経済発展が保障されるわけではなく、中小企業の中身が問題である。(2)中小企業の状況には、各国のマクロ経済状況、社会文化状況、社会主義時代の計画経済システムの態様などが深くかかわっている。(3)政府が取るべき中小企業支援政策は、当該国の状況に合わせて多様なものであるべきである。
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