研究概要 |
本研究は,制度を考察する際に,社会的アプローチを提唱している。社会的アプローチは,特定の国の制度を形成する際,制度がその国の社会基盤に依存して変容すると考え、すなわち制度の歴史依存性,政治依存性,文化依存性などを重視しながら,制度の有効性を解明することによって,制度の多様性を明らかにし,最適な制度の構築することを探求し、結果的に制度の社会的機能を向上させるというものである。これらの社会的依存性分析は,本研究全体のベースを提供する。 以上のアプローチをベースに中国財務ディスクロージャーと監査制度を考察した結果,中国の監査制度は政治行政主導型であるといえる。このような制度が形成された要因は次の6つがある。(1)歴史上、中国型エージェンシー関係は徴税法をもとに、納税者、徴税者と国家検査機関で、構成されている。この基本的な関係は今日までつづいている。(2)中国の政治,経済,社会は,官僚主導であり、行政と政治(政党)が一体となって中央集権的である。(3)エリートは国の大学,研究所,行政機関などに集中しているのに対して,プライベートセクターの形成はこの構造に制限されている。(4)人間意識も歴史的・政治的な要因に制限され,国民は政府に依存しがちであるため、自治権などに対応する政治勢力の生成温床はない。(5)市場経済の発展による民間資本はいまだ不十分で,国家資本が会社を支配するコーポレートガバナンスの構造である。民間主導型の会計監査制度が生成する資金提供源は形成されていない。(6)一般に中国人は儒教を中心とする多元的な道徳倫理感を用いるが,経済のグロバール化につれて国外の思想も中国人の文化的行動パターンに影響をあたえている。
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