研究概要 |
ファイバー空間の極小モデル理論は射影的代数多様体に対する理論の相対化として考えられるが,極小モデル存在のための障害となる未解決のフリップ予想もこの相対化に残る.しかし高次元の対象の研究がいつもフリップの存在を認めないと先に進まないのでは良くない.それで簡単で面白い楕円曲線をファイバーに持つ場合を具体的に調べようというのが目的である. 楕円曲面論においては,極小モデルが常にあるので,考察する曲面は極小と仮定して進む.高次元の底空間の場合ではそれはできないが,いくつかの試行錯誤の末,局所モノドロミーがべき単で重複ファイバーが因子の上に並ばないとき,底空間上局所的に相対的極小モデルが存在することが証明できる.これが本研究の出発点である.尚,証明にはホッジ構造の変動やトーラス埋め込み理論等が必要である. この特殊な場合の極小モデルの記述により,射影的楕円ファイバー空間の双有理的分類が,底空間が局所的でその中の固定された正規交差因子の外側でファイバー空間が滑らかな場合にできる.これが第二段階にあたる.こうしてできた双有理同値類それぞれに対し,極小モデルの具体的構成を与えるのが第三段階である.そのあとにも,すべての極小モデルについての記述,そこから導かれる標準束公式の精密版などを調べる段階がある.これらができれば,多くの問題に応用できるようになるだろう. 本研究では第二段階が完全に終わり第三段階も終わりにずいぶん近づいたところまで進んだ.さらに研究を進めるにはトーラス埋め込み理論の理解を深めることが重要である.またここまでの結果や議論は,ファイバーが複素トーラスの場合にもある程度有効であり,この方面への一般化も今後の課題となる.
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