研究概要 |
大偏差原理の研究において,エントロピー関数またはそのLegendre変換で表される自由エネルギー関数の決定は,難問となることが多いが,研究の中で重要な位置を占める問題である.ランダムウォークの訪問点の個数もその例外ではない.そこで,ここで考えているランダムウォークの標本路の終点を固定したものを代わりに考え,エントロピー関数の持つ性質を導き出すことを試みた. ピン留めされたランダムウォークの訪問点の個数の大数の弱法則および大偏差原理に関しては,ピン留めされていない,いわゆるランダムウォークの場合と全く同様の結果を導くことができた.しかし,そこでの証明の手順の中で,ピン留めされていないランダムウォークの訪問点の個数に関する結果を利用しているため,すでに証明されていること以上の事項を見出すことはできない.そこで,Brown運動に関する結果から,研究の方向性を探ることにした. ピン留めBrown運動に関するWiener sausageの体積に関する研究が行われていたが,そこでの話題は平均値の漸近挙動の解明が中心であり,確率過程としての性質に研究の焦点が当てられているとは言いがたい状況であった.しかし,3次元および6次元においては,ピン留めされているものとそうでないものとの間に,挙動の違いが見出されていることは大変興味深い.しかし,作用素論的な手法で議論がなされているため,確率過程としての性質の中で本質的に働いているものが全く見えない.そこで,ピン留めBrown運動に関するWiener sausageの体積を確率過程として捕らえ,Brown運動の性質の中で本質的に作用しているものを見出すことが,研究上重要な事項である.さらに今までの研究の流れおよび経緯から,ピン留めランダムウォークの訪問点の個数の平均値について考えた.もっとも,Brown運動に関する結果をランダムウォークで考えた場合にも同じことが成立するか否かを問うことは極自然に現れる興味でもある.そして,3次元に関してはその問いに肯定的に答えることができた.一方,6次元の場合は未解決のままとなっている.
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