研究概要 |
非可換空間における場の理論,特にそのトポロジカルソリトンやインスタントンの研究が,近年,活発に行われている.これらの理論は空間座標xとyの非可換性[x,y]=-iθを仮定し,対応する可換な理論で場の積をスター積に置き換えることによって構成される. 非可換幾何学の支配する唯一の観測可能な物理現象は量子ホール効果である.量子ホール系は最低ランダウ準位に束縛された電子の作る世界であるが,この電子のx座標とy座標は交換しない,という著しい特徴を持つ.その結果,電子が内部対称性SU(N)を持つ場合,量子ホール系の対称性はW_∞をSU(N)拡大したW_∞(N)で与えられる.本研究では,この観点から量子ホール系の量子場理論を構成した.更に量子場の期待値をとることにより,古典場理論を解析した. 非可換空間の特殊性から,近接する電子間には交換相互作用により,コヒーレントが自発的に発生する.一層量子ホール系ではスピンコヒーレンスが,これに加えて二層量子ホール系では層間コヒーレンスが発生する.この現象はコヒーレンス系特有の位相的ソリトン(スカーミオン)を観測することで実験的に検証できる.量子ホール系における位相的ソリトンは非可換ソリトンである. さて,従来,位相的ソリトンは古典的励起としてのみ知られていた.本研究の最大の成果は,空孔励起のW_∞(N)回転として非可換ソリトンの量子力学的状態を求めたことである.これに付随して,非可換ソリトンの位相的荷電密度と実際の電荷密度との間の厳密な関係式を導いた.更に,非可換ソリトンの励起エネルギーを一層及び二層量子ホール系で解析した.計算して得られた励起エネルギーを実験結果と比較して,本研究の成果の正当性を検証した.
|