研究概要 |
本研究の目的は,東北大学とマサチューセッツ工科大学,ジェファーソン研究所における電子散乱によって,原子核反応に対する相対論的効果や中間子交換電流の寄与を実験的に研究することである.当該期間中に以下のような研究を行った. 1.東北大学において,酸素-16とカルシウム-40を標的とした(e,e'p)実験を行い,イタリア,パヴィアグループの理論家の協力を得て,以前行った炭素-12の結果とともに相対論的理論計算と比較した.実験から得られた断面積は,いずれの標的に対しても理論の約半分であった.これは,理論に不十分な部分のあることを示唆している.中間子交換電流の寄与は,炭素-12で一番大きく,原子核が重くなるに従って小さくなる.これらの結果は,日本物理学会やフランスのグルノーブルで開催された国際会議で口頭発表し,東北大学のResearch Report of LNSで出版した.また,現在,Physical Review Cに投稿中である. 2.アメリカのマサチューセッツ工科大学で行った陽子を標的とした中性パイ中間子発生電子散乱実験の論文2編を出版した.この研究は,デルタ共鳴の四重極成分の強度を測定し,陽子の変形について調べるものである.実験から得られた四重極成分はクォーク模型の予想より大きく,パイ中間子の雲の寄与が大きいことを示している.実験から得られた縦波型-横波型干渉項の実数部分と虚数部分をさまざまな理論と比較した結果,マインツ・ユニタリー模型が唯一実験と合うことが分かった.しかし,この模型には問題があることが知られているので,完全な理解を得るためには更なる研究が必要である. 3.アメリカのジェファーソン研究所で行ったヘリウム-3を標的とした(e,e'p)pn反応の論文を出版した.結果は,ヘリウム-3のような軽い原子核の大運動量核子の場合でも終状態相互作用の寄与が大きなことを示している.3体崩壊の場合は,2体崩壊の場合よりも終状態相互作用の寄与が大きく,得に大運動量陽子(大ミッシング運動量)の場合に顕著である.
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