ブラックホールは物質の重力崩壊によって形成される強重力の時空構造であり、その性質が種々の視点かち研究されてきた。本研究計画では、ブラックホールについての関連研究を進展させつつ、ブラックホールの周辺に存在している物質場(特に、静止質量を有するスカラー場)が引き起こす波動現象についての研究を遂行した。 1.ブラックホールの周辺から放射された波動場は重力ポテンシャルによって散乱され、時間の経過と共に次第にその強度は減少していく。本研究では、一般の球対称ブラックホール時空におけるグリーン関数の手法を発展させ、スカラー場の減衰パターンを解析した。その結果、場の静止質量の効果によって、その波動には一種の共鳴散乱が起こり、時間の逆ベキ則に従う極めて普遍的な減衰パターンが出現することを発見した。その後、他の研究グループによって詳細な数値計算が実施され、解析的手法によって得られた本研究の結果の正しさが立証されている。これは静止質量のない波動場には決して現れない減衰パターンであり、その観測は波動場の静止質量の有無に関する決定的な証拠になると思われる。 2.また、一様磁場中にある回転ブラックホールの周辺における荷電スカラー場の束縛状態について考察した。散乱状態とは異なって、束縛状態にある波動はブラックホールからのエネルギー供給によりその強度を増大させることができる。本研究では、一様磁場による効果に着目し、場の電荷の正負によって波動の固有振動数や強度増大率が異なることを明らかにした。この相違のため、周辺の磁気圏では正または負の電荷分布が卓越し、ブラックホール自体は逆の電荷を帯びることになる。ブラックホール磁気圏におけるこのような電荷分布の分離は電磁波のバースト的放射のような天体現象の引き金として興味深い。
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