研究概要 |
本研究課題は,構造II(sII)型包接水和化合物(クラスレート・ハイドレート:CH)単結晶の弾性的性質の圧力依存性を決定し,機械的構造安定性,ホストケージ-ゲスト分子間相互作用(ゲスト分子の弾性的性質への寄与)を明らかにすることを目的とし、以下の研究成果を得た。新たに製作したヘリウムガス駆動型ダイヤモンド・アンビル・セルを用いて窒素ハイドレート(NH),アルゴンハイドレート(ArH),クリプトンハイドレート(KrH),テトラハイドロフランハイドレート(THFH)の単結晶を作製し,顕微鏡観察,高圧ラマン散乱分光測定より各sII型CHの存在圧力領域および圧力誘起構造相転移について調べた。室温でsII型CHを有するものについては,NHでは0.1〜0.85GPa, ArHでは0.2〜0.43GPa, KrHでは0.01〜0.45GPaの圧力領域で存在することが明らかになった。また,これらCHは基本的にsII型から六方晶のsH型CHを経て最終的に非CHの"filled ice"と呼ばれる斜方晶sO型構造へ転移することが分かった。機械的構造安定性,ホストケージ-ゲスト分子(原子)間相互作用のゲスト依存性を調べるためにsII型ArH, KrHの高圧ブリュアン散乱測定を行い,その弾性的性質の圧力依存性を決定した。この結果から,sII型ArH, KrHはsI型構造のメタンハイドレート(MH)とよく似た弾性的性質を有し,弾性的にほぼ等方体であることが分かった。しかし、弾性定数およびその圧力依存性とsII型CHの存在圧力領域はゲスト分子(原子)によって異なることから,ホストケージ-ゲスト分子(原子)間相互作用はホスト水ケージに対するゲストの相対的なサイズに依存し,剪断応力等に対する構造安定性が異なることが見出された。また,本研究結果からsII型天然MHのような混合CHの構造安定性はそのゲストガス成分によって異なる可能性があることが推察される。
|