研究概要 |
最近になって,数値計算の手法に大きな進歩があり,計算機自身の性能も向上してきたことと相まって,数値計算の果たす役割に変化がみられる.とくに量子モンテカルロ法に関しては,この数年でフラストレーションのない問題の多くを非常に効果的にあつかうことができるようになってきた.この結果,これまで手のでなかった幾つかの興味ある問題に手が届くようになった.そこで,本研究プロジェクトでは(1)計算手法をさらに発展させることによって,研究可能な物理系の範囲を広げると同時に(2)新しく研究可能になった問題のうち,新しい現象や新しい状態を含んでいるのではないかと予想されるものを取り上げて,その諸性質を解明すること,などを目的とした.具体的には,空間的な構造をもった無秩序相や,強い磁場の印加によって出現する磁気秩序とそれに関連した量子臨界現象などの研究を行った.(1)としては量子モンテカルロ法のなかでも経路積分表示に基づき,経路を確率的にサンプリングしていく世界線の方法をとりあげた.とくにワーム更新法と呼ばれるアルゴリズムを大きなスピンの場合への拡張した.無秩序な基底状態を持つ可能性のあるモデルとして高い対称性SU(N)を考え,これに対して新しいループ更新アルゴリズムを提案した.また,ポーズ粒子系のためのワーム更新アルゴリズムも提案した.さらに,拡張アンサンブル法の一種である転送行列モンテカルロ法を上述のワーム更新量子モンテカルロ法と組み合わせることを試みた.(2)としては,これまで,スピン液体的であるとされてきたSU(4)モデルについて,実はネール秩序相が基底状態であることを見出した.また,磁場誘起磁気秩序化の問題を取り上げ,低温領域における量子モンテカルロシミュレーションを行い,平均場近似から得られる臨界指数が厳密に正しいことを示唆する結果をえた.また,解析的議論によってこの結果が正しい理由を与えた.
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