研究概要 |
本研究は、共形場理論の基底状態と常微分方程式系の間に存在している非自明な対応を活用することにより後者の大域的性質を調べ、それを応用してパリティ・時間(PT)対称性を有する一次元量子系の様々な物理的側面を解析することを目的として始められた。この結果PT対称系における固有値の実値性の証明、PT対称性の自発的破れとその相分離線の定量的解明などの具体的結果を得た。またこれらの結果が、物理的にはスケーリング極限をとった後の系に成立しているのに対して、有限サイト上で定義された可積分多体系と確定特異点をふくむ線形微分方程式系にも同様な対応を発見し、それを利用して超幾何関数の拡張であるHeun型微分方程式の解の大域的性質を解明した。さらに、これらの対応を基底状態だけでなく励起状態の構造にまで拡張できる事を確かめ、3階の微分方程式系と対応するW3共形場のヒルベルト空間に関して、「微分方程式系の特異点」とW3共形場における特異ベクトルに興味深い対応がえられた。 同時に、ここで開発された手法を、共形場の変形理論に応用することにより、長らく懸案であった、Virasoro minimal模型に関する(1,2)摂動に関しての熱力学的ベーテ仮説方程式に対して、これまで個別的に得られていた結果を統一的に網羅する一般論を構築する事に成功した。 3年間の研究課題のまとめとして、2004年度7月に静岡大学において「量子力学のニューフロンティア-PT対称性、擬可解性、厳密WKB法」と題する国際会議を主催した。内外の中核的研究者約25名を集めて、先進的話題に関して活発な議論がおこなわれた。今後この分野の研究の指針を決定する重要な会議になったと考えられる。
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