研究概要 |
本研究では,短周期表面波の波形計算手法と,構造解析のための偏微分係数を計算する方法を開発した.この方法の特徴は,表面波を深さ方向の変化を表す局所固有関数と水平方向の変化を表すポテンシャル関数との積で表現することである.これにより,3次元不均質の問題を2次元ポテンシャル関数を評価する問題に変形できるので,計算に必要な資源を大幅に少なくすることができる.また,相反定理とボルン近似のもとで,不均質構造を初期モデルとしたときの,構造パラメータ摂動に関する偏微分係数の計算も行える.本研究では,日本列島付近を例に取り暫定的な不均質構造モデルを作成した.このモデルに基づいてポテンシャル関数や偏微分係数の計算を行ったところ,とくに短周期(10秒付近)の表面波で,パターンの歪みが著しく,表面波の経路の曲がりやポテンシャル分布の非対称性が強くなることが明らかになった.一例として,2002年房総半島沖地震について,この構造モデルで時刻歴波形を計算したところ,平坦構造(横方向に均質な構造)を仮定した場合に比較して,分散性が著しくなり,速度の遅い短周期の表面波波群が現れることがわかった.このような結果は観測波形の特徴を定性的にはある程度まで再現していると考えられる.しかし,現行の構造モデルでは観測波形を定量的に良く再現することはできなかった.また,特にラブ波については観測波形の特徴を再現するには堆積層の効果が重要であることも示唆された.これらのことは,構造モデルの改良が必要であることを示しており,今後の課題とした.
|