研究概要 |
【背景】断層運動にもとづく地殻応力推定問題では,複数の応力を記録している断層群からそれらの応力を検出することが,90年代以降の課題である.この問題を解く「多重逆解法」を,筆者は2000年に提唱した.この手法を発展させ,解析用ソフトウェアを公開することが,本プロジェクトの目的であった. 【方法論】第1の成果は,断層データから応力を求めるインバース問題が,5次元単位球面上の統計処理に帰着できたことである.このことを利用して,多重逆解法で得られる応力群の平均とばらつきとを定量化することを可能にした.さらに古地磁気学で行われている褶曲テストの手法を導入し,大きく傾いた岩体での古応力推定を可能にした.また,この球面上で等間隔に計算グリッドが分布する場合に,応力の分解能・計算精度・効率の点で,最適な計算グリッドとなる.そこでスーパーコンピュータを使用して,ほぼ等間隔に6万の点をこの球面上に分布させることに成功し,多重逆解法の計算精度と応力の分解能を向上させることができた.多重逆解法の解は,この球面上に分布する点のクラスターとして表現される.そこで,非階層的クラスター解析のアルゴリズムを導入し,それらのクラスター中心とクラスターの広がりとを自動決定することに成功した. 【公開事業】方法論を掘り下げ,プログラムを整備したうえで,平成16年(2004年)9月末に多重逆解法のソフトウェアを筆者のホームページ上に置き,世界に向けて無償で公開した.また,平成16年度末には「小断層解析ワークショップ」と銘打った2日にわたる会を開催した. 【事例研究】改良した手法により,掛川地域・宮崎地域・人吉地域・新潟地域・能登地域・琉球列島に適用し,これまでになく詳細な応力史が明らかになった.
|