研究概要 |
温帯〜亜熱帯地域の陸域古気候を定量的しかも高解像度で解析するために,淡水成炭酸塩堆積物であるトゥファを題材に,堆積場において採集した水や堆積物試料を分析・観察した.その結果,1)縞状組織は水温変化を反映した方解石の沈殿速度の季節的変化が原因で発達することが明らかになった(Kano et al.,2003).また,2)農業用水や地下ダムの建設などの人為的改変がトゥファの組織に記録されることも解った. 上記の研究成果を受けて,岡山県新見市・高梁市・鹿児島県喜界島・沖縄県宮古島などから採集した試料を用いて気候解析が実践された.まず,3)酸素炭素安定同位体比について検討した結果,水温の季節変化との相関性が一般的であり,近年の地球温暖化傾向をも記録していることが解った.次に,4)トゥファから降雨イベントの回数と時期が読み取れることを見出した(Kano et al.,2004).岡山県新見市のなどの縞状トゥファ試料には「年縞」のほかに,褐色を呈する幅0.1mmオーダーのバンドが認められる.この褐色バンドはX線マイクロアナライザーの線分析で得られたSiやAlのX線強度曲線のピークと一致し,粘土鉱物に富む部分であることがわかった.また,5)褐色バンド形成のメカニズムを理解するために,降雨イベントから5日間,新見市の堆積場で水質の連続観測を行ったところ,水に含まれる懸濁粘土が,降雨後の増水時には通常の7倍程度増加することも判明した.さらに,6)中国山西省の古トゥファについての解析も行ない,酸素同位体ステージ3(約5万年前)では現在よりも降水量が多かった事も示唆した(狩野ほか,2004). 以上の研究により,トゥファの生成条件,縞状組織の生成機構,古環境解析法について,新たな知見が数多く得られ,「トゥファ古気候学」とも呼ぶべき,新たな研究分野が提案出来た.
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