研究概要 |
密度汎関数法は分子,高分子,タンパク質などの電子物性や化学反応性などの理論的研究に用いられて大きな成果を納めてきた.本研究では,強レーザー場中での分子ダイナミックスを研究するために,電子のみならず核の波動関数を考慮したBorn-Oppenheimer近似を超えた時間依存密度汎関数法の展開を試みた.本年度の研究では,電子ガスモデルを拡張した核-電子ガスモデルを用いて核-電子相関を見積もった.結果を以下にまとめる. (1)Random-phase近似を用いて核-電子間に働く有効引力を解析的に導き,それが核-電子相関によって遮蔽されていることがわかった. (2)Random-phase近似を用いた核-電子有効相互作用を基にして,さらに,Ladder近似による核-電子間有効相互作用を数値的に見積もった.核-電子ガスモデルの低密度領域において,引力的補正を与えることがわかった.本研究の成果は,Int.J.Quantum Chem.に現在印刷中である.現在,得られた核-電子相関ポテンシャルを強レーザー場中の分子ダイナミックスに適用することを行っている. 一方,強レーザー場誘起の核ダイナミクスを再現できる時間依存密度汎関数法を開発するため,その精度比較に必要な現状では最も良く核運動を記述する時間依存断熱状態法を開発した.電子の動きはレーザー電場の変化に追従する時間依存断熱電子状態とそれらの間の電場誘起非断熱遷移によって説明でき,核ダイナミクスを追跡することができる.分子軌道法を用いれば,大きな分子にも適用でき,エタノールの選択的解離反応に適用した.強レーザー場中では,C-C結合の方がC-O結合より切れやすいという実験結果が報告されている.本方法によって,生成した1価カチオンの段階で,(CH_3)-(CH_2OH)^+の電子配置を持つ時間依存最低断熱状態と,(CH_3)^+-(CH_2OH)の解離性断熱ポテンシャルが短いC-C結合距離で交差し,2つの状態間の非断熱遷移により解離が促進されることが明らかとなった.
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