研究概要 |
本研究では,ナノスケール構造制御に基づく物性のコントロールに向けて,微視的誘電相互作用が誘電体の巨視的誘電特性に及ぼす影響についての知見を得ることを目的とした.このために,強誘電相互作用と反強誘電相互作用との拮抗によって発現するダイポールガラス状態について,熱および誘電的特性化を図り,ダイポールガラス状態の解明を試みた.さらに,誘電相互作用領域サイズと巨視的誘電特性との相関を解明するために,典型的な強誘電性化合物であるBaTiO_3および量子常誘電性を示すSrTiO_3について,石英ガラス基板上にRFスパッタ法による薄膜の形成を行い,その構造と誘電特性を検討した.その結果, 1.強誘電性化合物PyHBF_4(Py=C_5NH_5)と反強誘電性化合物PyHPF_6との固溶体であるPyH(BF_4)_<1-x>(PF_6)_x結晶において,ダイポールガラス状態の発現を熱的にガラス転移現象として観測することに初めて成功した.これにより,ダイポールガラス状態がダイポール再配向運動の凍結に基づく非平衡凍結状態であることを明らかにした. 2.BaTiO_3およびSrTiO_3において,スパッタ時の石英ガラス基板温度を室温から700℃の範囲で変化させることにより,形成する薄膜試料中の結晶粒径をそれぞれ30nm,40nm以下の領域で自在に制御できることを見出した.さらにBaTiO_3においては,結晶粒径が10〜30nmに制限された場合には,室温での結晶構造がバルクでは120℃以上で安定な立方晶であること,また,結晶粒径が大きくなるにしたがって,200〜300Kの温度領域における誘電率が増大することが明らかとなった.
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