研究概要 |
本研究ではシリルラジカル、シリルビラジカルを結晶として単離し、その構造と性質を調べた。 トリス(トリイソプロピルシリル)クロロシランをヘプタン中、ナトリウムで還元すると、トリス(トリイソナロピルシリル)シリルラジカルが黄色結晶として67%の収率で得られた。X線結晶構造解析の結果、シリルラジカル中心の回りの三つのケイ素-ケイ素-ケイ素結合角の和は359.99°であり、平面構造をとっていることがわかった。また、このシリルラジカルの半減期はヘプタン中、室温で4日であるが、この溶液にフルオレン、ナフタレンなどの芳香族炭化水素が共存すると、半減期は1.5〜3か月に延び、安定性が著しく増大することがわかった。 次に、trans-1,3-ジブロモ-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチルシクロテトラシランをベンゼン中、カリウムで還元すると、三種類の常磁性化学種を経て、最終的に(trans-1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチル-1,3-シクロテトラシランジイル)ジカリウムが生成した。三番目の常磁性化学種はESRではサテライトを伴う二重線として観測され、赤色結晶として単離できる。X線結晶構造解析からこの化学種は1,2,2,3,4,4-ヘキサ-tert-ブチル-1,3-シクロテトラシランジイルビラジカルであることがわかった。このシリルビラジカルの二つのシリルラジカル中心は平面構造をとっている。また、二つのシリルラジカル中心の距離は2.796(3)Åであり、共有結合は形成していない。この結果はシリルビラジカルをESRで観測し、結晶として単離した初めての例である。 さらに、最終生成物であるシリルジアニオンを紫色結晶として単離した。X線結晶構造解析の結果、このシリルジアニオンはベンゼンと相互作用して一次元の超分子構造を形成していることがわかった。この超分子構造はシリルアニオンとしてこれまでに例がない新しいタイプのものである。
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