研究概要 |
金属配位性部分と電子受容性部分から構成され、光誘起電子移動能を有するジピリドフェナジン骨格にテトラチアフルバレン(TTF)ユニットを組み込むことにより、d-π相互作用やジピリドフェナジンからTTFへのエネルギー移動が可能な金属配位型ドナー分子(1)の合成を行い、その性質について検討した。また、ジピリドフェナジン骨格に二つのテトラチアフルバレン(TTF)ユニットを組み込んだ配向性電子移動を目指した金属配位型ドナー分子の合成(2,3)についても検討した。 11-iododipyridophenazineにTMS acetyleneによってアセチレンを導入した後、更に薗頭反応によって、目的とする金属配位型ドナー分子(1)をdeep brown powderとしてoverall 18%で得た。アセチレン導入の際にTMS acetyleneに代えてmethyl butynolを用いたことにより、1の収率をoverall 60%以上に向上させることができた。この合成法を用いて、二つのテトラチアフルバレン(TTF)ユニツトを組み込んだ金属配位型ドナー分子の合成(2,3)の合成も行った。 金属freeなドナー分子1のクロロフォルム中での電子スペクトルは、309,383,400,450nmに強い吸収があり、また吸収末端が600nmまで及んでいる。これは1の分子において、ジピリドフェナジン環からアセチレンを通してベンゾTTFまでπ共役系の拡張に起因した現象と思われる。クロロフォルム中での1の蛍光スペクトル測定より、ジピリドフェナジン部分を励起させると、TTFへのエネルギー移動が起こっていると考えている。また合成したドナー分子1と各種金属イオンによる金属錯体の形成を検討してところ、Ru(II), Re(I)との錯形成に成功し、それぞれ錯体特有の蛍光スペクトルが観測できた。このことは、ジピリドフェナジン部分を励起させると、TTFへのエネルギー移動が起こり、TTFが基底状態に戻る際のエネルギーが金属錯体の励起に使われて、それに伴うエネルギー移動が起こったためであると考えている。今回、光誘起電子移動が可能な金属配位型ドナー分子(1,2,3)を新たに合成し、ドナー分子自身のみならず金属錯体での光誘起電子移動が観測できた。
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