研究概要 |
三重項ジ(9-アントリル)はカルベン中心角が殆ど直線で2枚のアントラセン環が直交した構造をとるため、不対電子は非局在化している上、4個のペリ位水素がカルベン中心を立体的に保護しており、熱力学的にも動力学的にも安定であると考えられた。しかし、室温脱気ベンゼン中での寿命は0.5マイクロ秒と非常に短寿命であった。これはアントラセン環の10位でのカップリングによる環状三量化反応が起こるためである。このカップリング反応を抑制するために、10,10'位にフェニル基を導入したジアントリルカルベンは半減期40分の長寿命三重項カルベンであった。本研究では10,10'位での反応を完全に抑制するために、この位置に2,6-ジメチル-4-tert-ブチルフェニル基を導入したビス{9-[10-(2,6-ジメチル-4-tert-ブチル)フェニル]アントリル}ジアゾメタン(1a)を合成し、その光分解によって発生する三重項ビス{9-[10-(2,6-ジメチル-4-tert-ブチル)フェニル]アントリル}カルベン(2a)が室温脱気ベンゼン中では半減期50時間の長寿命三重項カルベンであることを明らかにした。しかし、このカルベンは二次減衰を示し、まだ二量化反応によって減衰している事が示された。10位での二量化が困難であることから、カルベンの反応は再びカルベン炭素で起こっているものと考えられる。このカルベン炭素での反応を抑制する目的で、アントリル基の2,7位にブロモ基を有するカルベンの前駆体ビス{9-[2,7-ジブロモ-10-(2,6-ジメチル-4-tert-ブチル)フェニル]アントリル}ジアゾメタン(1b)を合成し、その光分解によって発生するカルベンの寿命測定を行ったところ、このカルベン(2b)の半減期が6.5分と通常の三重項カルベンに比べて長寿命であるが、母体カルベンに比べて予想外に短寿命であることを明らかにした。
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