研究概要 |
シアル酸(NeuAc)およびKDN含有複合糖質は様々な細胞間認識に関与しており、細胞表層を構成する重要物質である。それ故、複合糖質中のNeuAcおよびKDN含有糖鎖の3次元構造や動的挙動を研究することは、糖鎖と受容体分子との相互作用を理解するために有用な知見が得られると考えられる。しかし、分子量の大きな糖蛋白質上の糖鎖の立体配座および動的挙動を完全に解析した例はこれまで報告されていない。これに関し、^<13>C標識NeuAcを合成細胞膜上のシアル酸含有オリゴ糖鎖や糖蛋白質上に組み込み複雑なパルス系のNMR測定により立体配座および動的挙動を観測した例が報告されている。しかし、NMRにおける複合パルス系の測定は、一般に感度の低下という問題点を生じる。そこで研究代表者は3,9-^<13>C標識NeuAcを合成し、それを用いることでHMQC-HOHAHAの簡単なパルス系列NMRでNeuAcの全プロトンを簡便に観測できることを明らかとした。さらに3,9-^<13>C標識NeuAcの対照物質として3-^<13>C標識NeuAcと9-^<13>C標識NeuAcの等量混合物が上記NMR測定上、同等の標識効果があることを検証し、等量混合物として扱う方が合成コストの面で有利であることも明らかにした。この混合物利用法をNeuAcα2→3Gal 2糖やSialyl Le^x mimetics(擬似4糖)の標識化へと発展させることにも成功した。また糖鎖を構成する重要単糖類であるKDN,_D-ManNAc,_D-GlcNAc,_D-Man,_D-Glac,_L-Fucの効率的^<13>C標識化法についても確立し、合成中間体としてエポキシドを経由することで、応用研究に有用となるそれら^<13>C標識化合物のアナログ体の合成をも可能とした。この最小限かつ効率的な標識化法は単に^<13>C標識法として優れているばかりでなく、^<14>C標識体合成にも適用できるものである。
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