研究概要 |
15元素を越えるラジオアイソトープを一つの溶液に含むラジオアイソトープ(RI)・マルチトレーサー法を開発し,主として動物実験に適用し,第一遷移金属のV, Cr, Mn, Fe, Co, ZnやSeなどの微量金属の生体内動態を同時に知ることができることを明らかにした。さらに先行研究および本研究において,中性子放射化分析法およびICP-MS法を適用して脳内の各部位における数種の元素(とくに第一遷移金属のMn, Fe, Co, Zn)の量が高感度に決定することができることを示してきている。本研究においても一貫として,これら三法がもつ特色-原子核をプローブとして多元素を同時に追跡するという特色-を生かし研究を展開してきた。「マルチトレーサーで脳内の動きを!ICP-MSと放射化分析で脳内の量的な分配を!」を探ってきた。質の違うこれらの追跡データ情報は"脳局所の遷移金属濃度分布およびその生物無機化学"という新たな地平を与えると考える。 本研究において次の事実が明らかになった。 1.脳内における遷移金属濃度は多くの場合,不均一に分布している。それは金属によって特異的であり,成長過程においても特殊性がある。 2.脳内の鉄濃度は,加齢の過程において,特に顕著に局所に集積する。 3.パーキンソンモデルラットの実験によると,病態の発生とともに鉄が黒質に集積することが判明し,さらに先んじてマンガンの集積があると考えられる。 4.3の結果は,パーキンソン疾病の発生に脳内微量元素が関与している可能性を示すものであり新たな事実である。 5.血液脳関門は脳内の微量金属濃度の制御に大いに働いていると考えるのは大きな間違いでないと思われるが,我々はこの血液脳関門を経由しないで脳内に金属元素が侵入する新たな経路を明らかにした。それは鼻腔より嗅覚神経を通る経路である。 6.鼻腔より嗅覚神経を通って,アルカリ金属およびタリウムが脳内に容易に入ることを実験的に示し,医学への応用に言及した。
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