研究概要 |
ランタン型ルテニウム複核錯体はRu_2^<5+>の酸化状態のものが最も多く報告され,また,この酸化状態のものは1つを除いてすべてσ^2π^4δ^2δ^*π^<*2>の電子配置をとることが知られている.本研究では強いπ供与性架橋配位子をもつ錯体を合成し,その電子状態について検討した. [Ru_2(OAc)_4Cl]と4,5-dimethyl-2-methylaminothiazole(Hdmat)を封管中135℃で反応させ[Ru_2(dmat)_4Cl](1)を得た.また,1を電解酸化することにより,[Ru_2(dmat)_4Cl]PF_6(2)を得た.X線構造解析の結果,1及び2はdmatがすべて同じ向きに配位し,1のRu-Ru距離は2.4317(9)Åで,その1電子酸化体2のRu-RU結合距離は2.3326(9)Åで,1電子酸化によって約0.1Å短縮している.Evans法を用いた磁化率測定で1,2の有効磁気モーメントμ_<eff>はそれぞれ1.7BM,2.89BMで会った.このことから1,2の不対電子はそれぞれ,1,2であり,1から2への酸化により不対電子数が増加することは,不対電子軌道(SOMO)が縮重したπ^*軌道であることを示している.2では配位子のπ系と金属原子間δ^*軌道との強い相互作用によるδ^*軌道の不安定化が起こり電子はδ^*に入ることができずπ^<*3>となっていると考えられ,このπ^*軌道から電子が1つ抜けるために1から2へのRu-Ru距離の大きな短縮がおこると考えられる. 1をLiCCPhと反応させることによりアキシャル位にアルキリジンの配位した錯体[Ru_2(dmat)_4(CCPh)](4)を得た.この錯体のRu-Ru距離は2.4697(9)Åで3の2.4317(9)Åと比べて約0.3Å長くなっていた.アキシャル配位子をClからCCPhに変えたときのRu-Ru距離の伸長は,電子配置がσ^2π^4δ^2δ^*π^<*2>の他のルテニウム複核錯体に見られるのと同程度であり,電子配置の違いによる差異は見られなかった.また,4の酸化電位は3のものより約0.1V負側にシフトしており,他の錯体で見られる差(0.2-0.3V)に比べて小さくなっていた.
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