研究概要 |
ルテニウム金属錯体上の原子団(配位子)間の相互作用について2-ピリジンカルボン酸イオン(pyca)、ターピリジン(trpy)、ビスピリジルエチルアミン(bpea)を共存配位子とした錯体を用いて検討し、硝酸イオンの変換反応について2,2'-ビピリジン(bpy)を有する錯体を用いて検討した。 1.[Ru(NO)X(pyca)_2]^<n+>型錯体の幾何異性体の安定性を決める要因としてX配位子が重要であることを示した。電子的あるいは構造的特徴の異なるX配位子有する錯体の反応性を合成化学的な手法により評価し、理論化学的手法によりこれらの違いを明確にした。これらの錯体においてニトロシル配位子(NO)の強いπ-電子吸引性が構造を決める重要な要因で、中心金属ルテニウムのdπ軌道を通した配位子間の相互作用を考えることにより理解できることを明らかにした。NO配位子とこれのトランス位にある配位子の相互作用の強さの程度を理論計算により導き出し、これまでの合成化学的に得た経験的なそれと矛盾が無いことを示した。他のポリピリジン配位子を有する錯体についても同様に理解できることが分かった。 2.[RuX_2(bpy)_2]^<n+>型錯体としてXがN_3^-,NH_3,CH_3CN,1/2CO_3^<2->を用いて硝酸イオンの還元反応について検討した。これらの錯体のエタノールあるいは水溶液中と低濃度の硝酸存在下において錯体分子上で定量的にNOへの変換に成功した。反応条件などを詳細に検討し、反応機構の解明のため安定同位体によるラベル実験も行った。反応には複数の反応経路の可能性が考えられ、これらの特定には至っていないが、硝酸還元の電子源として溶媒(エタノール中の場合)、中心金属の酸化、硝酸自身の不均化反応が考えられることを示した。
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